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インド観光で、「ゴールデントライアングル」と呼ばれるデリー、アグラ、ジャイプールを訪れることは、インドにおけるイスラムの浸透の追認に等しい。人々は、この国の過去におけるイスラム支配の遺産の数々を体験することになる。イスラムは偶像を否定するから、ヒンドゥー教や仏教のような神像をもたない。ヒンドゥー教が幾百の神像を連ねることにより現世の利益を確定する一方、イスラム教は抽象によって、自らの絶対性と宇宙とのつながりを信者に伝える。その一点において、インド、すなわち、ヒンドゥー教社会と、東西に分離したイスラム教社会(パキスタン、バングラディッシュ)とは、対極的関係となった。。
ヒンドゥーの表現とイスラムのそれを比較すると、ニュートラルな(どちらの宗教にも与しない)日本人の目から見れば、イスラムの抽象力に圧倒される。具象=偶像よりは、抽象=幾何学模様のほうが、遠大な宇宙とのつながりをイメージさせやすいと思える。
だが、イスラムによる抽象性の拡大は、表現手法の大いなる飛躍の1つであって、もちろん、相互の優劣を意味しない。イスラムの登場は、それまでのインドの神々の世界からの転位であって、人間は両者を認めつつ共存できる。表現手法は、けしてオルタナティブなものではないはずだ。

インドを代表するタージマハール廟に向かう門。神像は一切ない。(12/30/03, アグラ)

タージマハール廟に隣接したイスラム寺院

タージマハール廟の裏側。大理石に施された模様が美しい。この廟は、第五代ムガール皇帝=シャー・ジャハーンが最愛の妻のために建てた。17世紀のことだ。インドを代表する建築物だが、イスラムのものであって、ヒンドゥー教の様式ではない。もちろん、内部にはなにもない。