●アンコールワット観光の総括
アンコールワットは、周辺を含めて、すばらしい観光地だ。
世界遺産としての価値を十分すぎるほどもっている。
カンボジアが高い文明をもった国であることを知った。
そして、そのアンコール王朝を滅ぼしたのが、隣国シャムのアユタヤ朝だった。
タイの首都バンコク郊外には、アユタヤ朝の遺跡群が残っていて、観光地になっている。
同地を訪れたことのある人も多いと思う。
近代以降の東南アジアは、西欧列強の支配に屈したが、中世においては、
世界で例を見ない繁栄を誇った地域であることがわかる。
さて、カンボジアの近年の悲劇については、ホーチミン観光の総括のところで少し書いた。
米国、中国、ソ連、そしてその影響を受けた近隣諸国を巻き込んだ諸勢力の争いが絶えなかった。
その影響もあり、この国に恐ろしい大量殺戮があった。
造反有理を掲げた中国文革の影響を受けたポル・ポト派が、彼らの規定する「反革命派」を粛清した。
ベトナムのホーチミン市からカンボジアに入国すると、
カンボジアの人々の優しさが際立っていて、
旅行者を安心させる。
ベトナムの人々からは、「きつい」「きびしい」という印象を受ける一方、
カンボジアの人々からは、「やさしさ」を第一に感じる。
しかしながら、現実はそうした印象とは裏腹だ。
地雷博物館に行くと、この国が抱える未処理の地雷の数は無限にも等しいことを知る。
映画『キリンフィールド』に偏見がないとはいえないものの、
粛清が行われたことはまぎれもない歴史の事実。
そればかりではない。
カンボジアの遺跡のまわりには、裸足の子供たちが数多くいて、
物売りだったり、物乞いだったりする。
道路も未整備だ。
東南アジアの最貧困国の一つだといわれる。
日本、韓国をはじめとする先進国のODAは、民衆レベルにとどかないようにもみえる。
カンボジアの近現代史は、カンボジア人民が悠久の時間を費やして紡いできた宗教心、
優しさを粉砕してしまったのか。
“悪魔の共産主義”という一言で、その主因を説明することもできまい。
カンボジアの国旗には、アンコールワットがデザインされている。
アンコールワットは、カンボジアの人々の拠り所の1つなのだ。
アンコールワットは、外国の観光客のためのものではない。
偉大な世界遺産は、そのすべてそうであるように、
グローバルに共有されてしかるべきであるものの、
なんといっても、それをつくり保持する人々
――アンコールワットの場合は、カンボジア国民――
のアイデンティティーなのだ。
カンボジアの人々がアンコールワットの下に団結し、
貧困から脱し、やさしさと微笑みの絶えない国として、
永遠の繁栄を続けることを願ってやまない。(完)
